2021.03.12
「相続放棄の取り消しの依頼はできますか?」とのご相談を頂きました。
その経緯を伺うと、父親が亡くなり、
すべての財産を母親に譲りたいとの親思いの気持ちから、
子供達はとある事務所に相続放棄を依頼したようです。
そして家裁での相続放棄が完了し、いざ、名義変更をしようとしたところ、
法務局に書類の不備を指摘され登記申請を取り下げることとなりました。
どこが問題なのでしょうか。
一見よくある事例かと思います。
しかし、これは法律に携わる者であればとんでもない間違いだとすぐに気づかなくてはいけません。
何が問題なのかというと、
相続放棄とは当初より相続人でなかった状態となるという事です。
つまり、このケースでは夫婦には子供がいない状態と同様になり、
次順位の相続人にその相続権が移行することになります。
父親の両親は既に他界していたため、
父親の兄弟姉妹へその相続権が移行することとなってしまいました。
そして、悪いことは重なるもので、
父親の兄弟姉妹は8人もいて、
その末っ子であった父親より先に全員が既に他界していた事により、
その兄弟姉妹の子供達がそれぞれ代襲相続人となるという、
相続で最もネックとなる多数相続となってしまいました。
そこで、そもそもの相続放棄を取り消したいとの相談でした。
ですが、裁判所に相続放棄の申立てをしてそれが受理された場合は、
たとえ熟慮期間内であっても、原則的に撤回、取消しはできません。
これは当然です。
相続放棄申述の撤回が許されるとすれば、
他の相続人や利害関係のある第三者の地位が不安定なものとなるからです。
しかし、あくまで原則なので、
詐欺または強迫による場合や成年被後見人や未成年者自身による申請など取り消すことは可能です。
また、別途訴訟により相続放棄そのものが錯誤による無効だと主張することも出来ますが、
その可能性は低く、時間と費用がかかる事になるでしょう。
相続放棄後の単純承認も方法としてはあるかもしれませんが、
このご相談者様へも今後どういった対応をすべきか説明させて頂き、
結局20人近くの相続人となりましたが、
無事に不動産の名義変更までたどり着くことが出来ました。
相続放棄の申請は一度きりで失敗が許されません。
信頼できる事務所にご相談の上慎重に行うことをお勧めします。
神戸・兵庫の「街」のホームロイヤー
司法書士 福嶋達哉