2021.06.10
事務所にご連絡頂いたAさんから「父の相続時に家族と関わりたくない。何年も会っていないので現在の生死は分からないが、仮に父が生存していたとして今の内に相続放棄をしたいのです。」と相談を頂きました。
何とも言えない事情ですが、残念ながら被相続人の生前に、相続放棄をすることは出来ませんし、仮に「私は要らないから」と相続人間で遺産分割協議したとしても法律上は無効となります。
相続放棄は、相続財産をいらないと考える人が自ら家庭裁判所へ申述をすることによって行うものである以上、生前に相続放棄を認めてもいいように思えます。
さらに、Aさんのように相続争いに巻き込まれたくないと考える人が事前に相続放棄をしておく実益もあります。
しかし、法律は生前の相続放棄を認めていません。それはなぜでしょうか。
理由の一つとして挙げられるのが、生前に相続放棄することを認めてしまうと相続財産を他の推定相続人へ渡したくないと考える人が、強迫や詐欺により相続放棄をさせてしまうことが考えられるからです。
また、借金まみれの状態だったが故相続放棄したが、その後資産の増加などで相続放棄を取りやめたいと考える人が出てきてしまうことも考えられます。
何より相続放棄はその字のごとく「相続が開始しないとできないもの」だからです。
では、生前の相続放棄に代わる手段はあるでしょうか?
①相続人の廃除
これは、一定の推定相続人(相続人になる予定の人)を相続人から廃除する、つまり、相続人ではないことにする手続きです。
被相続人の存命中にこの手続きを取ることができますが、その当該相続人による被相続人に対する虐待や重大な侮辱、著しい非行があったときに限られますので、実際には認められることは少ないようです。
②遺言+遺留分の放棄
遺留分については、家庭裁判所への申述の基生前の放棄が認められています。
遺留分とは、一定の推定相続人に保障されている最低限の相続分です。これは遺言でも排除する事は出来ません。
遺留分を生前に放棄し、また、遺言や遺贈、生前贈与を活用することで、被相続人の生前でも、遺留分を有している推定相続人に遺産を相続させないようにすることができるのです。
ただ、遺留分の放棄は相続放棄と違って本人の申述により取り消す事が可能ですので対策としては充分ではありません。
となると、生前に完全に相続権を放棄あるいは排除させる手続きはありません。
Aさんにもご説明の上、相続発生後に相続放棄をご依頼頂く約束をしてご了承頂きました。
神戸・兵庫の「街」のホームロイヤー
司法書士 福嶋達哉