2023.11.25
2019年7月1日に施行された改正相続法により、「預貯金の仮払い」という制度が作られました。
今回は、この制度の内容を説明するとともに、活用方法についてもお話しいたします。
預貯金の仮払い制度とは、預貯金口座の相続に伴う出金手続を行う際、本来であれば法定相続人全員で行われる遺産分割協議に基づいて手続すべきところを、一部の相続人のみからでも出金手続が可能になる制度です。
預貯金の口座は、その名義人がお亡くなりになられた場合は凍結され、相続人全員の同意や遺産分割協議を経るまでは、入出金をすることはできなくなります。
しかし、葬儀費用等の支払いのためお亡くなりになられてから数日中に多額の現金での支払いが必要になるなどの不都合があったため、一定金額を限度として相続人の一人から被相続人名義の預貯金口座からの出金をできるようにしたことが、預貯金の仮払い制度の概要です。
では、実際にいくらまで出金できるのでしょうか。これは法律上決められており、次のABいずれか低い方の金額が上限となります。
A 死亡時点での預貯金残高×法定相続分(相続人の取り分)×3分の1
B 金150万円
具体的な事例に当てはめると、次のような計算式になります。
例1 預貯金残高 金300万円 相続人 子供二人(法定相続分は各々2分の1)
この場合には、次のように計算されるため金50万円が上限となります。
金300万円×(2分の1)×(3分の1)=金50万円 < 150万円
例2 預貯金残高 金1500万円 相続人 子供二人(法定相続分は各々2分の1)
この場合には、次のように計算されるため、例1とは異なり金150万円が上限となります。
金1500万円×(2分の1)×(3分の1)=金250万円 > 150万円
なお、預貯金口座が複数の金融機関に存在する場合には、この計算式は、各金融機関ごとに適用されることになりますので、複数の金融機関で手続をする場合、出金できる総額が金150万円を超える可能性もあります。また、仮払い制度を利用しても支出に対するお金が足りない場合、家庭裁判所で仮処分という別の手続を経ることで、法定相続分までの金額を出金できる可能性はあります。
仮払い手続の際に必要な書類関係についてですが、お亡くなりになられた方の戸籍謄本等(出生時から死亡時までの一連のもの)や、手続をされる相続人の方の印鑑証明書等、いくつかの公的資料が必要となります。この必要書類は、各金融機関ごとにその取り扱いが異なりますので、お手続をされる金融機関に問い合わせいただいてから取得されることをお勧めいたします。
また、仮払い制度を利用する際に、いくつかの注意点もあります。他の相続人と相談せずに手続ができてしまうため、後々トラブルが生じてしまったり、多額の借金の存在に後日気づいたけれども、相続放棄ができなくなってしまうという可能性もあります。
預貯金の仮払い制度は、相続手続をする際に活用すればとても便利な制度ではありますが、その利点だけでなく欠点もありますので、実際に制度を活用する際には、ぜひ、ご相談いただいてから手続されることをお勧めいたします。